Dear
疾風がそう言った瞬間に、一瞬だけ奏哉の眉がピクッと動いた。
それに気が付いた疾風は、フッと小さく笑うと、奏哉の返事を楽しみながら待つ。


「…俺とソイツは、ただの幼なじみだ。」

「っ……」


わかってた、私と奏哉は…"ただの幼なじみ"だって。それくらいわかってたのに…なのに、すごく悲しい。

教室移動をするってだけで、わざわざ教室まで戻って来てくれたり。
アタシが忘れ物した時は、自分が忘れた、ってことにしてくれたり。
そんな優しい奏哉だったから、少し期待してたのに…


「…なら、早くいけよ」

「は…?」

「ただの幼なじみを待つ必要なんてねーだろ?
コイツは俺と行くからテメーは先に行けよ」


キツい目付きで奏哉を睨みつけている疾風。
奏哉も負けじと疾風を睨んでいたが、今はもう普段の目付きへと戻っていた。


「ったく…じゃ、俺先に行くわ」


奏哉がそう言ったのを最後に疾風は睨むのをやめた。


「おー、じゃあな。」


疾風がそう言ったのを聞き、スタスタと歩いて行った奏哉。
その後ろ姿を見ていると、何故か胸がズキッとした…


「…なんで泣くんだよ?」


疾風にそういわれて初めて自分が泣いている事に気付いた。


「泣いてないし……バカ」

「はいはい、わぁーったよ」


そう言ってタオルを差し出してくれた疾風。
こんな風な、ちょっとした優しさが、疾風の暖かさの秘密なのかもしれない。
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