Dear
「…で、何の用?」


ツンケンしているようにも見える(というかしている)のは、ただの照れ隠し。
本当は会いに来てくれて、めちゃくちゃ嬉しい…


「忙しかった?ごめんな」

「えっ、あ、ううん!!!全然!寧ろ暇だったから」


まぁ暇だったのは事実だし嘘はついてません、とでも言いたかったので、笑ってごまかすことにした。

すると一瞬動きをピタッと止めて、黙り込んだのかと思っていると、何時も通りの律輝に戻った。

…今のは何だったんだろうって思ったけれど、そんな事考えるだけ無駄!
と、ポジティブに考えた。


「あぁ、…んとさ、数学の教科書持ってる?」

「うん、持ってるけど」

「…できれば貸してほしい」

「えっ……」


一瞬、目が点になった。
いや、…だってあの律輝が貸してほしいだなんて…。
そんなこと、口が裂けても言わないだろうなぁーと、今まで思っていたから。


「…無理?」

「え、あ、ううん!全っ然大丈夫!」

「マジ?さんきゅっ!」


そう言ってニカッと八重歯を覗かせる律輝へと、益々アタシの恋心は膨らんでいく。


「っ…ま、待ってて!
今急いで持ってくる!」


顔から湯気が出そうなくらい赤くなってるなぁ…、と思ったアタシはその場から逃げるかのように自分の席へと走っていった。

数学の教科書を手に持って、気を落ち着かせるようにゆっくり深呼吸をした。
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