満月の日の夜【短】


「....黄菜......。」


聞き取れないくらい小さな声だったけど、
心電図の音にかき消されてしまいそうなくらい弱々しい声だったけど、
確かに私の名前を呼んだ。


彰哉のそばに駆け寄り、
口元に耳を近づけて次の言葉を待つ。


「満月の日...には、たく...さんの...人が亡くなるん...やって。
でもな、逆に...たくさんの...命が誕生...する..んやって。」


彰哉はそこまで言うといったん言葉を切り
ふうっと大きく息を吐いてまた言葉をつづけた。

「黄菜には...な…亡くなった人を思って...悲しむ...んやなくて...
新しく誕生す....る命を....祝って...喜んで...欲し...い。」


彰哉は自分が死んでも悲しむな、と言っているのだろうか。




< 16 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop