彼の薬指
そう言ってバーテンはチラリと目配せをした


その先をわたしも追ってみると、
一人でカウンターに座り、お酒を飲む男の人がいた




今にも落ちそうな煙草の灰にも気付かず
目を閉じて静かにジャズのメロディを楽しんでいるような




そこだけが、少し違う空気に包まれていた




『店員さんですか?』


バーテンに聞くと、首を振り


「いえ、常連さんなんです。
 昔はこういったお店で働いていたとか」

『そうなんですか…』





バーテンと話しながらも、
なぜだか気になる




彼は目を開いて、煙草の灰を灰皿に落とし
また目を伏せる
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