彼の薬指

二十歳のbirthday

店内には
ジャズのメロディと
シャンパンのあく音


『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』

ピアノとサックスの音色に沈んでいく様な、優しいリズムが心地よく耳に入ってくる


カウンターの端に一人
小さな花束を持ってあたしは椅子に腰掛ける


「いらっしゃいませ」

黒服の男の子は笑顔で話しかける

同じカウンターの、中に座る女の子たちは
不思議そうな顔で私を見る


それもそうだ
ここはある飲み屋街のクラブの一つ

女性客など滅多に来ないのだろう


『ブランデーを、水割りで』

「かしこまりました」


バッグから煙草を取り出し、
ライターで火を付ける

磨きぬかれたグラスや灰皿

トンッ

と静かに火の付いた煙草を置くと同時に
水割りの入ったグラスが置かれる


「美羽さんですよね?お呼びしましょうか」

『いえ、いいです。ゆっくり飲んでますから』

微笑み返すと、彼も真面目な顔を緩め、

「ごゆっくりどうぞ」

と微笑んだ




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