月の欠片<短編>
番組はというと、至って単調なも

のだった。まずDJがその一週間

に起こった出来事を紹介する。そ

してその週に音楽チャートで一位

だった曲を丸ごと流し、その後に

DJの目線でニュースを語るので

あった。

彼の政治的な考え方は進歩的なも

のであり、どちらかといえば批判

的な眼で社会を観ていた。その一

方で、巷の話題になっている新商

品や新発見に対しては、重箱の隅

をつついても苦言を呈するような

保守派の考え方も併せ持っていた

。多くの場合自分は彼の言葉に共

感し、時には意味も無く涙したこ

ともあった。孤独で、ともすれば

単調になりがちな受験生にとって

、ラジオから聞こえて来る言葉だ

けでも、感情の起伏は十分に起こ

り得たのかもしれない。

番組を締める時、彼は毎回、それ

じゃ、とだけ言って私と別れた。

それは、あまりに名残り惜しく、

しかし噛み締めるような含みを持

たせた言葉だった。いつも私は、

30分間のその世界に、その言葉

をもって踏ん切りをつけ、改めて

勉強に励むのであった。


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