月の欠片<短編>
自問自答に行き詰まってしまった

私は手を止め、小さな窓辺を眺め

た。そこにはそれより更に小さな

胡麻斑蝶が一羽、羽を休めていた

。彼の触覚は取れてしまっていた

。恐らく方向が解らないのだろう

。私は介抱してやろうと、立ち上

がり、手を伸ばして蝶を捕まえよ

うとした。しかし、蝶の手前には

太く、目の詰まった網があり、ど

うしてもその外にいる蝶に手は届

かなかった。私は何分も網と格闘

した挙句、諦めてベッドに仰向け

に転がって、天を見上げた。

どうしてこうなってしまったのだ

。ただ私は、ひたすらにこのこと

だけを考えていた。そして何時し

か私の目には、恐らく高校生のあ

の時以来流したことの無かった涙

が溢れ出していた。

胡麻斑の蝶は、暫く止まったまま

動かなかったが、やがてぱっと羽

を広げると、小さな窓からちょう

ど覗いた満月に、まさに立ち向か

うかのように飛び立って行った。





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