2つの魔女
そう言って彼女は自分の胸元を開いて見せる。

細く白い首にはロザリオがあった。

黒い数珠でつながれたその先の十字架は黒く、赤い蛇が絡み付いている。

…とてもじゃないが、教徒が身に付ける物ではない。

わたしは顔を歪め、低い声で問いかける。

「…それ、術が書かれていた本と共に付いてきたの?」

「ええ、そうよ。ネットショップで購入したの。はじめは本物だとはあたしも思わなかった。けれど本の通りにしたら、術が使えるようになったの!」

彼女は眼を輝かせ、不気味なぐらい明るい調子で語る。

自分が『魔女』になったと思い、すっかり陶酔気分のようだ。

「それまであたしのことを『影が薄い』だの『空気』だの言っていたヤツらも、あたしの機嫌を窺うようになった! あたしは『特別』になれたのよ!」

「―くっだらない」

わたしは眉をしかめ、言い捨てた。

「一時は栄光に満ちた日々を送れるでしょう。でも今は? 落ち始めていることに気付いたから、そんなに慌てているのよね?」

彼女の口元が、ひくっと動く。

それに続き、目元や頬までも痙攣を起こす。

―高く積み上げたプライドが砕かれているのを感じているのだ。

「価値観の違いってヤツかしらね。わたしは『特別』が偉いことだなんて、一度たりとも思ったことはない。逆に『普通』であることこそが、誇れることだと思っているから」

「『普通』の方がくだらないじゃない!」

「『特別』であればその分、失うモノも『普通』とは違うってこと、分かっていないでしょう?」

「何をっ…!」
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