愛のうた。
すると、音楽室に一人の女の子がやって来た。

サラサラとした長い髪。
くっきり二重の瞳。
白くてすべすべした卵肌。


「千大ちゃん、どうしたの?」

千大ちゃんとは2年生の女の子。
家庭内に事情があって、
施設で暮らしている。
そして、よく音楽やってくる。


「水川先生って…結婚してるの?」

唐突すぎる質問。
今までこんなことなかったから…。
お空がきれいだね、とか
そんなことしか話したことなくって。
自分のことについて詳しく聞かれたことはなかった。


「え…なんで?」
「だって、指輪つけてるんだもん。」

千大ちゃんは薬指の指輪を指した。




「これはね…
先生の大切な人からもらった指輪なの」

私は迷いもなく微笑む。

「…その人とは結婚したの?」



……。


したかったよ。
でも、叶わない。


「結婚する前にお空に逝っちゃったの」
「そうなんだ…ねぇ、
水川先生はどこにも行かない?
千大を一人にしない?」




なぜ、そんなこと聞くの??
この子も一人で辛さを抱え込んでいる。
無理して隠さなくてもいいんだよ。
どうしようもないほど守りたくなった。

私は千大ちゃんを抱きしめる。



「行かないよ?
先生、千大ちゃんのこと大好きだもん」
「ほんと…?
千大も先生大好きだよ!」


無邪気に笑う千大ちゃん。
シュンみたいだった。
もしかして生まれ変わりなのかな…?


シュン、私は幸せだよ?
あなたは幸せですか?

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