これは、恋じゃない。(完)
「………あーもう。何でこんな場所で言っちゃったのかな」
日向くんは私の顔をじっと見た後、周りを歩いていく人に目を向けて、そう呟いた。
「……?」
私の方に目線を戻して、日向くんは苦笑いした。
「何もできないじゃん、ねぇ?人いたら手繋ぐのが限界」
………何も………?
何を………?
「…美里って結構鈍いよね……まぁいいや。これからたくさん時間はあるし。とりあえず帰ろっか?用事なんてないんだよね?」
「あ、う、うん…」
日向くんの手が私の手を包む。
その途端、ビクッと揺れる私の身体。
「!」
「そんなビクビクしなくても」
「…だってこんなの初めてだもん…。私が隣にいてもいいのかなって思っちゃうよ」
「美里が何を気にしてるかわかんないけど、周りの目なんて俺たち二人の間には関係ない。でしょ?それに、俺は美里じゃないと嫌。」
「!」
私の顔を覗き込んで、日向くんはにっこりと微笑む。
…私は何も言えなかった。
顔が熱い…。
「よし、帰ろ?」
「…うん」
私の返事を合図に、ゆっくりと歩き出す。
――隣にいてもいいんだよね…?
信じよう。
日向くんの手の温かさを感じながら、帰路についた。