心恋ふ
第一章
良い日になりそうだと思った日に限って悪い事は起きる
春の穏やかな風に乗って
桜の花弁が俺の手の甲に乗っかった。
普段の俺ならそんな些細なことでも苛ついてしかたねェが、今日の俺は朝から機嫌が良かった。
飯時には煩い隊士や、
毎日を宴にしたがる馬鹿達を黙らすほど……
ふと後ろに気配を感じ振り向くと、弟の様に可愛がっている中性的な顔立ちをした男がこちらに向かって歩いてきていた。
「よぉ、総司」
隣に腰を下ろした所で声をかけると
「土方さんは医師から命が残り僅かと宣告され、怒鳴るのも眉間に皺を寄せるのもやめた」
「……は?」
突然、訳の判らない事を感情が籠っていない声で話し始めた。
「狐や狸が土方さんに化け、
本物の土方さんは食べられてしまった」
いや、本当にコイツ何言ってんだ?
眉間に皺が寄ってしまうと、
「眉間に皺を寄せて怒鳴り散らす土方さんじゃないと土方さんじゃない!どうにかしてください沖田隊長!! ……って隊士達全員が涙目で僕に訴えてきたんだよ」
“あ、先陣きってやって来たのは佐之さんだけどね?”
何てクスクス笑いながら俺の眉間を押してきた。
アイツら俺を人だと思ってねぇみてェだな……。
思わず怒鳴り散らしに行こうとしてしまったが折角の最高の気分を自らの手で崩すのは……と思い、眉間を押してた総司の手を払い除け縁側に置いてある下駄で庭に出てみた。