北向きの枕【迷信ナあれこれ】
 「ちょっと、俺の話を聞けよ!!」
 立ち上がって小岩井は叫ぶ。
 「あっ。なんか、魂がはみ出してる」
 「本当だね。魂が抜けて来てる」
 唐突に背後から聞こえた声に小岩井はゾッとして、大橋の後ろまで逃げた。
 「あれ? 歌舞伎沢ちゃん達どうしたの?」
 小池は菓子パンを咥えたまま器用にそう尋ねる。
 「小池君に借りたDVDを返しにきたんですよ」
 「面白かったです。ありがとう」
 歌舞伎沢妹と歌舞伎沢兄は交互にそう言う。
 「どういたしまして、また面白いのがあったら貸すねー」
 笑顔で小池はDVDを受け取る。渡す側の歌舞伎沢妹も笑顔だ。
 しかし、小岩井はかなり怯えていた。
 何故ならつい先日に酷い目に遭わされたところだからだ。
 「ところで、小岩井君」
 距離を置いていたはずなのに、背後から声を掛けられた小岩井は絶叫する。
 「小岩井……うるさい」
 絶叫する小岩井のに抱きつかれている大橋は、耳を塞ぎながら、口を歪めた。
 「そうですよ、小岩井君。僕達が何かしましたか?」
 ニヤニヤと人当たりの良い笑みを浮かべる歌舞伎沢兄。
 「いろいろ! いろいろしたじゃないか!! 変な世界に連れてったり! 殴ったり!」
 「耳元で叫ぶな」
 必死に訴える小岩井に対し、大橋は大迷惑という表情で小岩井を引き剥がそうと試みる。
 「まあまあ、小ちゃん、落ち着きなよ」
 小池もなだめるが、小岩井はそんな言葉を聞いていない。
 大橋はすでに諦めた様で、弁当の中身を食べるという作業に戻った。
 「ところで、小岩井くん。なんか、呪われてたりする?」
 歌舞伎沢兄とは反対から同じ顔に尋ねられ、パニックを起こしながらも小岩井は首を振る。
 「じゃあ、車にでも跳ねられたんですかね?」
 腕を組みながら悩む歌舞伎沢妹。
 「小ちゃんなら跳ねられても気が付かなそう!」
 「さすがに、死んでたら気が付くだろ」
 「いや、小岩井君なら、例え死んでいても気が付きませんよ」
 男性3人は会話を交わすとジッと小岩井を見つめた。
 「ちょっと! 死んでないし! 跳ねられてないし!!」
 やっと、大橋から離れて小岩井は必死に否定する。
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