あいりちゃんとの生活
さて、10万の部屋だ。2DKで南向き、日当たりもいいし外装も明るくてきれいだ。最寄り駅には格安スーパーなるものもあったし、コンビニも道すがら2軒ほど発見した。先ほどの物件とは見るところも、意気込みもまるで違う。俺はすっかりこの街に住む気でいるらしい。
「ああ、こちらです。3階建ての1階になりますね」
鉄筋コンクリート7階建てと比べるとだいぶ小ぢんまりとした印象だ。白い外壁に華奢で派手なデザインの階段を見ると、女性を狙ったデザインのようだ。まあ、ここは別に構わない。
「あれ? 先客かな」
どうやら、俺に紹介する予定の部屋らしい。ドアが開きっ放しになっている部屋があり、中から誰かの声がする。オッサンは不機嫌にドアを開き、腰は低くした体勢だが不遜に声をかけた。
「失礼します、藤田不動産の者ですが」
「あ、トーヤマさん」
「なんだ、ナカハラか」
「すいません、接客中で」
「こっちもなんだ」
「えっ、本当に?」
「なんだ、現地見るなら見るって連絡しとけよ。被っちゃっただろ」
「すいません……」
部下の教育は、事務所に戻ってからにしてもらえませんか、トーヤマさん。本気で言いかけた。
「あ、どなたかいらしてるんです?」
俺の苛立ちを治めにかかったのは、部屋の中から聞こえてきた若い女性の声だった。絶対可愛い。声でそう分かる。妙に作ったようなところのない、自然な高い声だ。まあ、大抵こういうのは外すんだけど、実物を見るまではそう思っていたって罰は当たらないだろう。
「すいません、タケカワさん。実は、もう一方物件を見たいと仰る方がいらしてまして」
ナカハラという若い男らしい不動産屋の声が申し訳なさそうに言った。一応、俺にもそういった態度で一度謝った方がいいんじゃないか。
「じゃあ、一緒に見たらいいじゃないですか」
「いいんですか?」
「ええ、私は構いませんよ。どうぞ」
タケカワという女性の快い返事を聞いた直後に、ナカハラが顔を出した。つり目が印象的な、細長い顔と細長い胴体の持ち主だ。いかにも気が強そうだ。
「申し訳ないです、私の不手際でご迷惑をおかけしまして。中で先に部屋をご覧になっていらっしゃるお客様がいるのですが、よろしければ、お入りになってください」
随分とへりくだった態度で、だがつり目はしっかりとキープしたままの表情で、ナカハラは俺を促した。俺の前にのそっと立っていたオッサンは無言で部屋に入っていく。かわいそうに、ナカハラ。こんな接客のせの字も知らないようなオッサンに、彼はこの後説教を食らうのだろう。腑に落ちない。
「いえ、こちらこそ、いきなりすみません。失礼します」
一応、オッサンに嫌味を向けたつもりだったが、さっさと部屋に上がって行った彼には届いていなかった。長生きするな、こいつは。
「ああ、こちらです。3階建ての1階になりますね」
鉄筋コンクリート7階建てと比べるとだいぶ小ぢんまりとした印象だ。白い外壁に華奢で派手なデザインの階段を見ると、女性を狙ったデザインのようだ。まあ、ここは別に構わない。
「あれ? 先客かな」
どうやら、俺に紹介する予定の部屋らしい。ドアが開きっ放しになっている部屋があり、中から誰かの声がする。オッサンは不機嫌にドアを開き、腰は低くした体勢だが不遜に声をかけた。
「失礼します、藤田不動産の者ですが」
「あ、トーヤマさん」
「なんだ、ナカハラか」
「すいません、接客中で」
「こっちもなんだ」
「えっ、本当に?」
「なんだ、現地見るなら見るって連絡しとけよ。被っちゃっただろ」
「すいません……」
部下の教育は、事務所に戻ってからにしてもらえませんか、トーヤマさん。本気で言いかけた。
「あ、どなたかいらしてるんです?」
俺の苛立ちを治めにかかったのは、部屋の中から聞こえてきた若い女性の声だった。絶対可愛い。声でそう分かる。妙に作ったようなところのない、自然な高い声だ。まあ、大抵こういうのは外すんだけど、実物を見るまではそう思っていたって罰は当たらないだろう。
「すいません、タケカワさん。実は、もう一方物件を見たいと仰る方がいらしてまして」
ナカハラという若い男らしい不動産屋の声が申し訳なさそうに言った。一応、俺にもそういった態度で一度謝った方がいいんじゃないか。
「じゃあ、一緒に見たらいいじゃないですか」
「いいんですか?」
「ええ、私は構いませんよ。どうぞ」
タケカワという女性の快い返事を聞いた直後に、ナカハラが顔を出した。つり目が印象的な、細長い顔と細長い胴体の持ち主だ。いかにも気が強そうだ。
「申し訳ないです、私の不手際でご迷惑をおかけしまして。中で先に部屋をご覧になっていらっしゃるお客様がいるのですが、よろしければ、お入りになってください」
随分とへりくだった態度で、だがつり目はしっかりとキープしたままの表情で、ナカハラは俺を促した。俺の前にのそっと立っていたオッサンは無言で部屋に入っていく。かわいそうに、ナカハラ。こんな接客のせの字も知らないようなオッサンに、彼はこの後説教を食らうのだろう。腑に落ちない。
「いえ、こちらこそ、いきなりすみません。失礼します」
一応、オッサンに嫌味を向けたつもりだったが、さっさと部屋に上がって行った彼には届いていなかった。長生きするな、こいつは。