あいりちゃんとの生活
「あれ? またテレビ消えない。おかしいな」
 リモコンと格闘している藍璃ちゃんは、赤い電源ボタンを何度も押しては首をひねっている。いや、ちょっと待て。彼女の持っているリモコン、これ違うぞ。
「藍璃ちゃん、ちょっと貸して」
「え? うん」
 テレビに写っている何だかのお笑い芸人は、俺がテレビの電源スイッチを押して消しておいた。それから、テレビの上に置いてあるリモコンを手に取り、藍璃ちゃんがいじっていたリモコンと見比べてみる。明らかにボタンの数が違う。
「これ、HDDレコーダーのリモコン」
「え? 何それ」
「いや、だからさ。藍璃ちゃんが一生懸命いじくってたのは、HDDレコーダーのリモコンなんだって」
 テレビのリモコンを藍璃ちゃんに渡し、それからもう一度テレビをつける。お笑い芸人が微妙な笑いを取っていた。
「赤いボタン押してみて。消えるから」
 恐る恐るといったような動作で藍璃ちゃんがボタンを押すと、見事に画面が暗くなった。
「うわっ、すごっ! 何だ、リモコンが違うんだ!」
「そう。で、藍璃ちゃんが見てたのは、多分先週土曜に録った番組だよ。チャンネル間違えてNHK録っちゃってたんじゃない?」
 HDDレコーダーのリモコンを操作して、もう一度NHKのニュースをつける。先ほどのアナウンサーの顔が出てすぐに、緊急地震速報の独特な音が響く。分かっていても一瞬怯んでしまうのだから、この音を作った人には何かの賞を与えてもいいくらいだ。
「いや、この音だよ! 怖かった〜……」
「まあ、先週の土曜日のだから、今日は揺れなかったけどね」
 HDDレコーダーの停止ボタンを押して、ついでにテレビの電源も切っておく。しん、と静まり返った部屋に取り残された食材たちが見える。
「食べようか、とりあえず」
「うん、安心したらお腹すいちゃった」
 すとん、と藍璃ちゃんが椅子に腰掛けた瞬間、ガタンと音が鳴った。
「ちょっと藍璃ちゃん。いくら何でももうちょっと静かにすわっ」
 言い終わらないうちにグラグラと目の前が揺れ始める。いや、これは藍璃ちゃんの音じゃない。ほどなくして俺の携帯が鳴り出し、先週の土曜と同じような揺れに翻弄される。
「うわー、地震じゃん!! 大翔くんの嘘つき!!」
「いや、俺予知能力者じゃねえから!」
 慌ててテーブルの下へ潜り込む。小学生の頃からの習慣はほぼ全国共通で、20歳そこそこになっても抜けないということが判明した。藍璃ちゃんもしっかりとテーブルの足を掴んでいる。そういえば、足を掴めって教わったな。
< 9 / 12 >

この作品をシェア

pagetop