だから、笑わないで。




「……え…?」
「………おばさん、もうすぐ戻ってくるとおも…」



リンくんがいい終える前に玄関の扉が開いた。
そこには小さな紙袋をもったお母さんがいた。



「あら、リンくん、帰るの?」
「……あ、はい。お邪魔しました」
「折角ケーキ買ってきたのに」
「すみません」
「……りっ、リンくん……!」
「…………またね、憂」




リンくんはおじきをすると、静かに出ていった。
静かになる玄関。
なんだかお母さんの目がすこし赤い気がする。



「………もー、お母さんいきなりいなくなるからびっくりしたじゃない」
「ごめんなさいね、リンくんにケーキご馳走しようと思って」



お母さんはケーキの入った箱を高くあげながらキッチンに戻った。
あたしもあとをついていく。



「そういえば、目どしたの?赤いけど」



あたしが目をさしながら言うと、お母さんは驚いたように目をかくした。




「ホコリが入ったのよ。それより憂、お風呂入っちゃいなさい」
「あ、はーい」




あたしはパジャマをもってお風呂に行った。
湯船につかりながらじぶんの不甲斐なさに呆れていた。
泣いたかと思えば笑ったり、自分でもめんどくさいと思う。


さらにレンくんが好きなくせにリンくんのキスを受け入れようとしたり。
もう自分の気持ちがわからなかった。


レンくんに冷たくされ、リンくんは優しくしてくれる。
だからリンくんのキスを受け入れようとしたのか。



本当にそれだけ?
付き合っていた頃からあたしはリンくんのことも考えてきた。
レンくんのことは何を言われようがすごく好きだったけど、レンくんと付き合っていた当時からリンくんのことを考えてる自分がいた。
優柔不断だ。最低すぎる。


こんなのは、心の浮気じゃないのか。




でも、いまは浮気、なんて言えないけどね。





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