君が恋に落ちるまで。
「 ありがとうございました 」
車から降りて、俺の傘をさし
そう言って笑う彼女に笑顔で返し
車を発進させた。
マンションの駐車場に車を停め、
俺はハンドルに突っ伏した。
「 ・・・・何を・・ 」
何を、しているんだろう。
”慧くん”が彼女にとって
どんな存在なのかは分かっていた。
分かりきったその答えに
思わず溜息が出そうになった。
彼氏でもない男の名前を
呼ぶような子には見えない。
あんなに愛しそうに、悲しそうに
人の名前を呼ぶ子は初めてだ。
それほど好きだったんだろう。
”またね”と言えば、彼女は笑顔で
頷いてくれた。
”また会える”言葉の裏に隠した
自分の欲に、何度目か分からない
溜息を零していた。