カメレオン

朝

目が覚めると、間宮はもう仕事の支度をしていた。シャワー後の生ぬるい空気とせっけんの清い香が部屋を支配していた。
「おはよう」
間宮が笑顔を向ける。麗子は特に返事をせずぼやーとする。そこにルームサービスのコーヒーとフルーツが届く。間宮はいつも麗子が目覚める絶好のタイミングを図って注文するのだ。いつもコーヒー二人分とフルーツ。いつもそうだ。麗子は決して食が細いわけではない。いつも朝はピーナッツバターをたっぷり塗った食パンをほおばる。しかし間宮との朝はフルーツだけ。間宮と一緒に迎えた朝にフルーツがぴったり合うと思うからだ。一緒にスクランブルエッグでは何か格好がつかないから。間宮もそう思うのであろう。香ばしい香りのブラックコーヒーをすするだけだ。