【短篇】鬼ごっこ
「おいっ!!今日は、遅く帰るからなっ!!」


妻の名前を呼ぶことすら、煩わしいのか男はコーヒーを片手に叫んだ。


「…はい、はい。わかりました。」


妻は、適当な返事を返すが男はそれが気にいらなかった。


「おいっ!なんだ、その腑抜けた返事は!!だいたいなぁ。昔は…」


また男のお決まりの文句が、朝から始まる。


男が憧れていた父親の威厳、男としての矜持。


そういったものが、まだこの男の中にはあった。


妻は、少なからず理解はしていたが堪えられるものではなかった。


子供達が独立して、これからは夫婦二人でのんびり暮らそうと考えていても現実はこうだ。


口を開けば、文句と注文。


いくら長年連れ添ってきたとはいえ、いや、だからこそ辛いものがあった。
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