ヒコーキ雲に乗って
こうして改めてじっくり見てみても、やっぱり陽介は私のタイプではない。

私が今まで付き合ったり、恋愛ごっこをして来た人達は皆、どちらかと言えば色白で、スラっとしたタイプばかりだった。
陽介はどっからどう見ても色黒だし、自称筋トレが趣味なだけあってガタイも良い。

ついでに言うなら、性格面においても私の好みはクールで体温の低そうな感じだが、陽介はまさに正反対の超アツい男だ。

酒を飲ませると、“仲間”とか“絆”とか“夢”とかについて延々とアツく語り出す私が最も苦手としてきたタイプの男だという事を、この3ヵ月足らずで知った。



それでも、陽介はどこか人を惹き付ける魅力を持っている不思議な男だ。

その魅力が、彼の社交的な人間性にあるのか、どこにいてもリーダーになれるカリスマ性にあるのか、はたまた誰に対してもオープンで平等な博愛主義な部分にあるのかはわからない。


しかし、少なくともこの時点で私にとってそれは、あくまでもひとりの“人間”としての魅力であって、“異性”としての魅力ではなかった。

陽介だけでなく、他のゼミ生の男の子達の事も、徹夜で課題をしてひとつのベッドで一緒に眠ったりすることがあっても、決して異性として意識する事はなかった。


荻原ゼミに入ると決めた時、何が好きなのかもわからないまま、流されて付き合ったり、体を重ねたりする恋愛からはもう卒業すると決めたのだ。

そして、実際にゼミが始まり、思っていた以上に良いヤツばかりの集まりだったこのコミュニティの中で、男女の垣根も越えて、恋とか愛などといった感情とは一切かけ離れた、本物の“仲間”を作ろうとも決めた。


だから私は、陽介と一緒にいると時々感じる小さな胸の鼓動に、何度も何度も気付かないフリをした。

気付かないフリをし続けたら、この想いはただの錯覚なんだって思える日が来るんだと信じ込んでいた。





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