ヒコーキ雲に乗って
ひとしきり湖で遊んだ後は、バーベキュータイムが待っていた。

陽介を始めとする男の子達が、前日から買出しをしてくれた肉や野菜を切るのは女の子の仕事だ。

キャンプ場の炊事場というのは、なんでこうも料理しにくい作りなんだろうとつくづく思う。

しかもちゃんと虫除けを塗っているのに、何箇所も蚊にさされて痒くて仕方ないからたまったもんじゃない。


「あーーーーあかん!かゆい!!」

そう声を上げたのは、ゼミの女子の中でもずば抜けて美人の由希だった。

「由希、ムヒ貸したるわ。」

ポケットに入れていた、ムヒを由希に渡す。


「さすが香澄。気が利く!」

横からゼミのおかん的存在の谷が言う。


たった3ヶ月で、もうゼミの中でのそれぞれの役割というか、自分のキャラクター付けみたいなものがしっかり出来上がっているのが、すごい。


「ほんまに蚊多いなぁ。今日夜寝れるかなぁ。」

おっとり癒し系キャラのサチが、そう漏らすと、

「何言ってるん。寝かせへんで。」

間髪入れず、自称小悪魔でオネエ系の亜子が突っ込む。

「亜子、ほんまに寝かせてくれなさそうで怖い。」

少し離れた所で、タマネギの皮をむいていた夏海が笑いながら元気な高い声で言った。



みんなが楽しそうにハシャイでいる姿を見て、自分がここで一緒にハシャイでいる事が嘘の様に思える。

団体行動が苦手で、女の子大人数で群れる事が昔から好きじゃなかった私が、今この場にいる事を心地よく感じている事が不思議だった。

団体の中で、役割を決められたり、勝手にキャラクターを設定されたりする事が大嫌いだった私が、この団体の中ではそれが全く嫌じゃないのはどうしてなんだろう。

まだたったの3ヶ月しか経っていないのに、ここが自分の居場所だと強く思えるのはどうしてなんだろう。


その答えが、いかに単純なものであったのかを、私は大学を、ゼミを卒業してから知る事になる。









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