ヒコーキ雲に乗って
夕方6時から始まった飲み会は、夜が更ける程に盛り上がり、後から後から人が増え続け、みんなで花火をする頃にはほぼ全員集合状態だった。

皆思い思いに、自分の好きな花火を選んでは、火を分け合ってハシャいでいる。


私は迷わず線香花火を手に取り、川岸にしゃがみ込んで火を点けた。

みんなから少し離れて、一生懸命に輝く儚い光を見つめていると、背後に気配を感じ心臓がギュッとつかまれる気がした。

振り向かなくてもわかる。

気配を感じるだけで、鼓動が早くなる。


「まーたひとりで黄昏れてる。」

振り向くと、打ち上げ花火を手に持って困った様に笑う陽介が立っていた。

「線香花火は普通一番最後のお楽しみやろ。」

ヨイショっと言いながらしゃがみこみ、花火を地面に置く陽介の頭を見下ろす。

自分より大きい人の頭のてっぺんを見られる機会なんてそうそうないと思い、じっくりと見ていると、視線に気付いた陽介がこちらを見上げた。


「ひとりで線香花火もええけど、せっかくみんなおるんやから一緒に楽しもうや。」

そう言った陽介の表情はひどく真剣だった。


「…うん。」


私が素直にうなずくと、陽介はまた満面の笑みを浮かべながら、

「ヨッシャ!」

と、気合いを入れ立ち上がった。

そして次の瞬間、その大きな手で私の手をしっかりと掴み花火から距離を置いた。


「やっべー!!めちゃくちゃキレイ!!」

夜空に舞い上がる色とりどりの花火を見ながら、私の好きな人は嬉しそうに笑っている。

花火が全部消えてなくなるまでの間、2人の手と手はつながれたままだった。


-時間が止まればいい。

よく少女漫画で見かける様な、青臭い願い事を何度も何度も心の中で呟いた。

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