ヒコーキ雲に乗って
願いもむなしく、当然時間は刻々と過ぎ、花火も次第に勢いをなくし、やがて消えた。


「あー終わってもたな。」

そう残念そうに呟く陽介を見て、私は、つないだ手を離されてしまう事が怖くて、自分からそっと指をほどいた。

陽介は少しだけこちらを見た後、何も言わず花火の残骸を拾い始める。

私も黙って、それを手伝う。


つないだ右手がまだ熱い。

暗くてよかった。そう思った。

きっと今、体中の血液が全部顔に集まってるんじゃないかと思うほど赤くなっているに違いない。


(たかが手つないだだけで…中学生じゃないんやから…)

と心の中で自分に言い聞かせてみても、病気の様に火照った体はなかなか冷めてくれそうにない。

今まで、誰かとキスをしても体を重ねても感じる事が出来ずにいた、心臓がつぶれそうになるほどのドキドキが、今体中を駆け巡っているのがわかる。


全ての残骸を拾い集め、陽介は立ち上がった。

「ホレ、みんなのとこ戻るぞ。」

「あ、うん。ごめん、先行ってて。すぐ行くから。」

少し怪訝そうな顔をしたが、陽介はうなずきその場から去っていった。


本当は陽介についていって今すぐにでもみんなところへ戻りたい。

でも、私はその場から動けずにいた。

少しでも動いたら、眩暈を起こしそうなほどの熱い鼓動がおさまるまで、そこから一歩も動かずに、ただ暗闇の中で静かに流れる川のキラメキをずっとずっと眺めていた。



これから始まる切ない恋が、私の人生を大きく揺さぶるなんてこの時は知る由もなかった。








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