ヒコーキ雲に乗って
変わり者教授の厚意で、秋学期は講義の回数がだいぶ少なくなっている。

就職活動に集中してほしいという彼なりの優しさは有難いのだが、私からすれば陽介に会える回数が減るので、余計な親切でしかなかった。

とは言っても、講義があろうとなかろうと501に自然とみんなが集まると思っていた私は、特にこの事態を重要視はしていなかったのだ。


だけど、違った。

この年の秋の事は今でもハッキリ覚えている。


私の予想通り、ゼミ生のほとんどが講義がない日でも501に集まっては、みんなでただ世間話をしたり、就職活動について話し合ったりしていた。

その光景は、普段と何ら変わりないものだった。

でも、決定的に今までとは違っている事があった。



その場に、陽介がいない事だ。



陽介は、ある時を境に講義の無い日は一切教室にやって来なくなったのだ。

その理由は、ごくごく単純なものだった。



「あたし昨日陽介がキレイな女の人と歩いてるとこ見たんやけど、あれって誰なんやろ!?」

情報ツウの谷が、とんでもなく迷惑なスクープを見つけて来て教室で騒いでいると、冷静な声で陽介の親友である武が言い放った。

「あぁ、香織さんやろ?陽介の彼女やで。夏休みの終わりぐらいから付き合ってる。」


普段は優しくてお父さんみたいに聞こえる武の声が、この時だけは悪魔の声の様に聞こえた。



-カノジョ-


-ヨウスケノカノジョ-


頭の中が急に冷たくなっていくのを感じた。


「えーーーーマジで!?アイツいつの間に!!!」

みんなが騒いでいる声を背中越しに聞きながら、私は静かに教室を後にした。








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