ヒコーキ雲に乗って

四月になり、四回生になっても私の就職活動は難航を極めていた。

徐々に周りが内定を貰いだしているなかで、まだ一社も内定出来ていない自分があまりにも情けなく、無能に思える日々が続いていた。

息詰まった私は、大学の就職相談課に度々足を運ぶ様になっていた。

自分がこの先どうなりたいのか、どういう仕事をして、どういう大人になりたいのか。

そんなビジョンが全く持てないまま、面接に挑み、作られた台詞を吐き捨てる。

こんなんで受かるわけない事ぐらい、自分でも十分にわかっていた。


(焦っても仕方ない。)


そう言い聞かせようとすればするほど、自分が焦っている事に気付かされて、思わず深いため息が出る。



「シワ増えるぞー。」


低い、優しい、大好きな声が背後から聞こえた。

振り向かなくても、顔を見なくても、彼が今私を見て微笑んでいる事がわかる。

陽介はいつもそうだ。

表情と声がちゃんと呼吸をそろえている。

すべての機能が規則正しくリズムを打っている。

陽介はそういう人だ。


だから私も彼と向き合う時だけはきちんと呼吸を整えて、凛とした自分でいたいといつも思う。

でも、陽介の声が、表情が、視線が私の鼓動をどうしようもなく早く、熱くしてしまうから敵わない。



ゆっくり、呼吸を落ち着けながら振り向いてみると、そこには久々に見る大好きな人の笑顔があった。



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