ヒコーキ雲に乗って
正直なところ、何となくそんな気はしていた。

自分の気持ちに気付く事には鈍いが、誰が誰を好きという他人の恋愛事情に関する勘だけは、小学生の時から妙によく働くのだ。

就職活動を終え、またみんなで飲み会をしたり501で集まったりしている中で、
夏海の陽介を見つめる視線が、明らかに以前よりも柔らかく、少女の様に輝いている様に思えて仕方なかった。

冷静に考えてみれば、ゼミの中の誰が陽介を好きになってもおかしくない程、陽介はみんなに優しく、平等で、真っ直ぐな人だ。


「彼女おるし、どうしたらいいかわからんくて。でも、もう自分でもどうしようも出来んぐらい好きになってしまってて。」

痛いぐらい彼女の気持ちはわかる。

だって、私自身がずっとそんな気持ちを抱えて苦しんでいるのだから。


「あたし、前の彼氏と別れてからずっと恋とは無縁やったからほんまに動揺してるってゆうか、困ってて…香澄に話聞いてほしくて。香澄、どう思う?」

参った。

どう思う?なんて聞かれても、何も答えられるわけがない。

相手が陽介でなければ、きっと私は彼女がいようといまいと好きなら気持ちを伝えるべきだと夏海の背中を押すだろう。

でも、そんな事を言ってあげられる程、私は寛大ではないし、大人でもない。

だからと言って、「あたしも好きやねん。」なんてここで打ち明ける気にもどうしてもなれない。

そんな事を夏海に話したらどうなるかはわかりきっている。

私よりも何倍も人に気を遣う彼女の性格だ。
絶対に身を引くに決まっている。

前の彼氏に失恋して以来、恋に臆病になってしまった親友に早く幸せな恋をして欲しいと、いつも心から思っていた。

自分が陽介を好きでなかったなら、きっと夏海の久しぶりの恋を心から応援し、協力出来るのに。

陽介なら、心に傷を抱えている夏海を大きく包みこんでくれるに違いないのに。






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