ヒコーキ雲に乗って
「…香澄?」

長い沈黙を破るように、心配そうに夏海が私に呼びかけた。

「ご…ごめんごめん!なんかビックリして一瞬止まってしまってた!」

おどけて笑う私を見て、夏海はホッとした笑顔を見せた。

「そうやんな。いきなりごめんなぁ。結構自分でも最近気付いた気持ちやったから。」

「そうなんや。いつぐらいから?」

何とか平常心を取り戻し、本題を避けるように尋ねる。

「うーん。就職活動中にね、偶然街中で陽介に会ったんよ。その時、あたし第一志望やった企業の面接で全然うまく答えれへんくて、めちゃくちゃへこんでたん。そしたらたまたま面接帰りの陽介に会って、お茶する事になって。」

「うん。それで?」

何となく先の展開が見えた気がしたが、最後まで話す様に促す。

「それで色々話してて、陽介の人生観とか仕事に対する想いとか。同い年とは思えんほど、はっきりした将来のビジョン持ってる事にまず驚いて、すごいなぁって思って。」


陽介の将来のビジョン。

私は最後まで教えてもらえなかったけど、夏海はその夢の先を聞けたんだろうか。

「で、時間もあったし話が恋愛観とか、結婚観の方にも飛んでね、この人とならちゃんとした恋愛して、幸せな家庭が築けるんやろなーって思ったら急になんかドキドキしてきて。」


陽介の恋愛観や結婚観なんて私は、聞いた事もなかった。

聞きたくてもずっと聞けずにいた事を、夏海はたった一日で知ってしまったのだ。

初めて、目の前で嬉しそうに微笑む親友を憎いと思ってしまった。

大切な親友にそんな醜い嫉妬を抱いてしまっている自分が情けなかった。


「でも彼女とはうまくいってるみたいやし、どうも出来んのかなぁーって思ってる。」


-彼女とうまくいっている。

本人からではなく、夏海の口からその事実を聞くのは妙なショックがあった。


「…陽介の彼女ってどんな人なん?」

自然と口から出てしまっていた。

すると夏海は、特に何を感じた風でもなくゆっくりと話し始めてくれた。







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