ヒコーキ雲に乗って

恋心を打ち明けてくれた後、夏海は、彼女なりのやり方で少しずつ陽介との距離を縮めようと努力する様になっていた。

ゼミの講義では極力陽介の近くの席に座り、飲み会でも必ず陽介がいる輪の中に入り、一緒の話題で盛り上がり、笑う。

穏やかな外見とは裏腹に、夏海は一度恋に落ちると積極的なタイプだという事を思い出した。

きっと陽介に彼女さえいなければ、とっくに告白していただろう。



「今日帰りカラオケ行く人ー!」

カラオケ大好きな武が教室で声を上げた。

一斉に手が上がり、当然の如く陽介も夏海も手を上げている。

やがて点呼が始まるが、また波に乗り遅れてしまった私は、必死に手を上げるものの武の真後ろに座っている為、なかなか気づいてくれそうにない。


困った顔をしていると、一つの視線に気付いた。

陽介だ。

陽介が、今にも噴出しそうに笑いをこらえながら私を見ている。

そして優しい笑みを浮かべ、大きな声を上げた。

「おーい武ー。お前の後ろで一生懸命手上げてるべっぴんさんも数に入れてやー。」

その声で武はこちらを振り返り、どうやら私の存在に気付いてくれたらしい。

「おぉ!!香澄!こんなとこにおったんか!よしゃよしゃ、香澄参加ね!」


どうしてこの人はいつもこうなんだろう。

私が困ったり、悩んだりしている時いつでもすっと手を差し伸べてくれる。

でもそれはきっと、私だけではなく、全ての人に対してそうだからなんだろう。

陽介は、困っている人を絶対に放っておけない性格なだけだ。

錯覚しちゃいけない。

勘違いしちゃいけない。

必死に自分に言い聞かせた。

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