ヒコーキ雲に乗って
「あーいい風!!」

繁華街の近くを流れる川沿いを歩く陽介の少し後ろをついて歩く。

「でも、なんかもう夏の匂いがするね。」

私がふとそう口にすると、陽介は立ち止まり、振り返った。


「出た詩人的発言。もしや香澄って結構本読んでる人?」


小学生の時から国語が大の得意で、昔から暇さえあればジャンルを問わず、色んな本を読んで来た。

陽介に何度も突っ込まれている“詩人的発言”の根源はまさにそこにあると言える。

「うん。結構読むよ。本好きやから。」

陽介は、それを聞いた瞬間、

「やっぱりな。」と言って白い歯を見せて微笑み、また前を向いて歩き始めた。



「なんか香澄って、知れば知るほど最初のイメージと変わって行くから面白い。」

しばらく歩いた後で、川べりに腰をかけながら陽介が言った。

「最初のイメージ一体どんなんやったん?」

腰かけた陽介の隣りに立ち、尋ねる。

そして、肩が触れるか触れないかの距離を保ちながら、ゆっくり腰を下ろした。


すると、去年琵琶湖のほとりで見たのと変わらない、真っ直ぐな瞳をした横顔がゆっくりと語り始めた。


「初めてゼミの教室でお前を見た時は、何か背高くてやたらスラッとしたクールビューティーな女がおるなぁって思った。ほんででかい上に、背筋ピンって伸ばして、あんまり表情動かさんもんやから正直怖そうっつーか、とっつきにくそやなぁって印象やったわ。」

とんだ誤解を受けていた様だが、その第一印象の感想はこれまでも何度も言われた事があるので、今更驚きはしないが、好きな人にまでそう思われていたという事実にショックを隠せなかった。

私の少し落ち込んだ様子に気付いた陽介は、困った様に笑いながら続けた。

「でも、実際の香澄は違った。」

そう話し始めたその続きが早く聞きたくて、思わず陽介の目を覗き込んでしまった。

陽介は、少しも動揺する事なく、真っ直ぐに私と目を合わせた。













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