ヒコーキ雲に乗って
春になり、無事3回生になった私と夏海はその日、ある教室の前にいた。

荻原ゼミの初授業に出席する為だ。


新校舎の五階にある教室は、壁が真っ白で少し塗り立てのペンキの匂いがまだ残っていた。

中は高校の教室ぐらいの広さで、前には備え付けのホワイトボードがある。


ここでこれから2年間、変わり者の小難しい講義を受けるのだ。


すでに着席している生徒が何名かいたが、そこにいた生徒達は、想像していたよりもまともそうな人ばかりだった。

マニアックな教授の元に集まるメンバーだから、さぞかし変わった人ばかりなんだろうと思い込んでいたのだ。


どうやら夏海も同じ思い込みを持っていたらしく、教室に入って席に着いたと同時に、

「なんか思ったより普通そうな人が多くて良かったね。」

と、小声で囁いた。

夏海の声にうなずきながら、落ち着いてもう一度辺りを見渡してみる。


確かに、外見はごくごく普通な人達ばかりだ。

特に目立つ派手な人もいなければ、オタクっぽい人もいない。

それにしても、2年間同じ大学、同じ学部にいたにも関わらず、一度も見た事もない人ばかりな事に驚いた。

その事が、自分がこれまでいかに狭い範囲で大学生活を送ってきたかを物語っている。


高校とは違い、大学にはクラスというものがないので、自分から積極的に何らかのコミュニティに参加して行かない限り、ごく少人数の知り合いしか作れない。

サークルにも入らず、学校に来てもただ授業に出て、ご飯を食べて帰るだけだった自分の2年間を振り返ると、貴子と夏海と仲良くなれた事すら奇跡に思える。


そんな事を考えながら、変わり者の教授が現れるのを待っていた。
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