三毛猫レクイエム。
「あき……会いたいよ……」
私は未だに、こんなにもあきを想って涙している。
あきが白血病にさえならなければ、今も私達は幸せに暮らしていたはずなのに。
「……っ……あきぃ……」
あきが言っていた通りに籍を入れて、家族になって、この腕にあきと私の子供を抱く日が来たかもしれなかったのに。
いつか封印したはずの思いが、次から次へと表面へと湧き上がってきた。
あきがいなくならなかったら、あきが今も生きていたら、ずっとそう思っていた私は、いつしかその虚しさからその思いを封印したはずだったのに。
「あきぃ……っ……」
あきがいなくなったあの日から、何もかもが間違いになったんだ。
あきが今も私と一緒にいてくれれば、私がヒロに惹かれることなんてなかった。私達がこんなに悩むこともなかった。
ヒロに、迷惑をかけることもなかった。
錆び付いていた秒針に油を差した瞬間、今度は振り子を止められてしまったような、そんな気持ちだった。
第九章 奪われた、勇気
「移植?」
「そう。造血幹細胞移植だって」
あきが、少し疲れたように言った。
「もし、俺の白血病細胞におかされてない抹消血管細胞が採取できたら、それを自分に移植できるんだと。でも、医者の話だと難しいかもしれないって」
「どうして?」
「あんまり、白血病細胞が減ってないから」
私は、あきの手を握った。
「骨髄移植っていう手もある。ドナーが見つかれば……」
骨髄移植、それは私が唯一の白血病の治療法だと思っていたもの。他の人の健康な骨髄液を、あきに移植すること。
「他人だと、型が一致する確率は物凄く低いけど、兄弟だと結構高い確率で一致するらしい。親になると、確率は低くなるらしいけど」
あきには、弟の明仁さんと妹の明菜ちゃんがいる。