三毛猫レクイエム。
第二章

忘れられない、男

 約束の時間に公園に来てみたけれど、そこにはまだ誰もいなかった。

「君の飼い主はどんな人?」

 みゃ

 私の腕におとなしく抱かれているヨシは、私の顔を見て短く鳴いた。それが可愛くて、のどをなでる。

〝ペットも良いかもしれないな……〟

 ベンチに座ってそんなことを考えていると、人影が近づいてきた。

 みゃあっ

「あっ」

 突然ヨシがその人影のほうに走っていく。思わず腰を上げた。

「ヨシっ」

 それは黒のTシャツにジーパン姿の男の人だった。彼はほっと安堵したようなため息をついて、ヨシを抱き上げて私を見た。
 目が合った私はぺこりと頭を下げ、近づいてきた彼の顔を見てはっとした。

「……HIRO?」

 相手も、私を見て心底驚いたのか、大きな瞳をさらに丸くしていた。少しだけ青みがかった黒髪に、大きな目、高い鼻に薄めの唇。私は彼のことを知っていた。そして、彼も私のことを知っていた。

「君は……TAKIの……」

 ヨシの飼い主は、“Cat‘s Tail”のベース、HIROだった。


 こんな偶然があるのだろうか。

 家の前にいた飼い猫を届けたら、それが死んだ彼氏のバンドのメンバーの猫だったなど、偶然にもほどがある。
 二人して呆然としていた私達は、ヨシの鳴き声ではっと我に返った。
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