三毛猫レクイエム。
「あ、姫木真子です」
「阿東弘哉。今までどおり、ヒロでいいよ」
くすっと笑ったヒロだけど、私はまだ驚きから立ち直れていなかった。
「せっかくだから、座ろう?」
「あ、はい」
ヨシを抱いたヒロに促され、私達はベンチに座った。
ヒロはあきのバンドのメンバーだったから、写真やPVで顔を見たことは何度もあるけど、直接顔を合わせたことは数えられるほどしかないし、二人きりで話したことなどなかった。
少し気まずい思いをしていると、ヒロがくすりと笑った。
「そんなに緊張しないで」
「あ、ごめんなさい」
私は思わず謝った。ヒロは、あきと同じくらいの年だろうか。なんとなく落ち着いた雰囲気を持っている人だ。
ヒロは、そっと息を吐いてから、
「真子さんが来て、吃驚した」
と、続けた。
「私も、まさかヒロが……」
ヒロはそっとヨシの喉をなでながら、目を伏せた。
「昨日、タキの命日だったろ? 俺、ヨシと一緒にタキに会いに行ったんだよ。その帰りにこいついなくなって」
私ははっとして顔を上げた。昨日は私もあきに会いに行っていたんだ。
私の反応に、ヒロは少し納得したように、
「やっぱり、真子さんも?」
と、尋ねてきた。それに私は頷いた。ヒロはヨシを見つめて、ぽつりとつぶやいた。
「もしかして、ヨシは真子さんについていったのかもしれない。こいつ、タキに懐いてたから」
ヒロがあきの名前を呼ぶとき、親しみがこもっているのを感じた。