三毛猫レクイエム。
「忘れられないよ、あきのこと」
大好きで、愛おしくて、仕方がない人。
「忘れたくない」
ヒロは、微笑んだ。
「気持ち、凄いわかる」
「本当?」
ヨシがヒロにじゃれる。ヒロはそれをあやしながら、寂しそうに笑った。
「タキのことを忘れるなんて、至難の業だ。今でも、ちょっと気を抜くと、召集の電話がタキからかかってくるんじゃないかって思うことがある」
「召集の電話って」
あきが“Cat‘s Tail”のメンバーに電話をかける姿が思い浮かんで、私は笑ってしまった。
「タキ、音楽に真剣だったからさ。まあ、それは俺達も同じだったんだけど」
照れたように笑うヒロ。そのはにかんだような笑みに、私はあきを重ねてしまった。
何度も、忘れたほうが良いと言われた。
新しい恋をしたほうがいいと、言われた。
だけど、あきの存在を私の中から消すなんて、所詮無理で、私はいまだにあきのことを思い続けてる。
鮮明に思い出せる彼の存在を、こんなにも近くに感じるのに、どうして彼を忘れることが出来るだろうか。
「ユキもテツも、新しいバンド組んでるけど、やっぱり“Cat‘s Tail”ほどしっくりはこないって言ってる」
ほらね、あき。
あきの近くにいた人達は、あきのことを忘れることなんてできないんだよ。