三毛猫レクイエム。
第三章
ずっと増え続ける、もの
ヒロと別れてから、私の足は自然とある場所へと向かっていた。
見慣れた町並みだけど、ここに来るのもほぼ一年ぶりだった。本当は昨日来るべきだったのに、あきの葬儀以来となってしまっていた。
以前はあきと二人で歩いていた道を、ぼんやりとしながら一人で歩いていると、ぽんと後ろから肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには制服姿の明菜ちゃんがいた。
「真子姉!」
「明菜ちゃん?」
「やっぱり真子姉!久しぶり!」
元気いっぱいにそう言って私に抱きついた明菜ちゃんの勢いに、私は踏ん張るのが精一杯。
「真子姉、会いたかった!」
私を、まるで本当の姉妹のようにあつかってくれる明菜ちゃんは、あきの末の妹だ。年が離れているけれど、明菜ちゃんは凄くあきに懐いていた。そして、きっと今でも。
「明菜ちゃん、今、おうちに伺おうと思ってたんだよ。本当は、昨日……」
「お兄ちゃんに会いに来たの? きっとお兄ちゃん喜ぶよ」
私の言葉をさえぎって、明菜ちゃんは私の手を引いた。
「早くっ、きっとお兄ちゃん待ってる」
明菜ちゃんの笑顔は、兄妹だから、やっぱりあきに似てる。だけど、目の色は違う。明菜ちゃんの目は灰色で、少し特別だ。
「明菜ちゃん、待って」
「何?」
私の手をつかんだまま、明菜ちゃんは足を止めて振り返った。
「あの、視える……?」
ためらいがちに言った曖昧な言葉でも、明菜ちゃんは意味を汲み取ってくれたようだった。
「お兄ちゃんのこと? ううん、まだ、一回も視てないよ」
あきがいつも話してくれていた。明菜ちゃんには霊感があると。人には見えない何かが視えるのだと。
「そっか……」
「鈍くさいお兄ちゃんのことだから、どっかで迷ってないか心配だよ!」
そう言って笑う明菜ちゃんは、強い。