三毛猫レクイエム。

「あら、悪いわね」
「ううん、真子姉、お兄ちゃんに会いに行ってきなよ。お兄ちゃん待ってるよ」
「あ、うん」
「真子ちゃん、こっちよ」

 おばさんに促されるようにして廊下を進みながら、あきの言葉を思い出していた。



第三章 ずっと増え続ける、もの



 やっぱり、ちょっと緊張する。
 付き合い始めて一年が経ったとき、突然あきが私を家族に紹介すると言い出したのだ。
 あきの実家の前で、私が一歩を踏み出せないでいるのに気づいたのか、あきが私の手を引いた。

「真子、緊張してる?」
「好きな人の家族に会うのに、緊張しない人はいないよ」

 私の言葉に、あきが嬉しそうに笑った。

「そんなふうに言ってくれて嬉しい。大丈夫だから」

 あきに手を引かれて、私は滝沢家の門をくぐった。

「ただいま」
「お兄ちゃん!?」

 中から甲高い女の子の声が聞こえてきて、どたどたと忙しない足音が続いた。そして現れたのは、中学生くらいの女の子だった。女の子はあきに飛びつかん勢いで押し迫った。

「久しぶり! おかえり!!」
「お、明菜は相変わらず忙しないな」

 明菜と呼ばれた女の子が、まん丸の瞳で私を見た。

「誰?!」
「あ、初めまして。姫木真子です」
「明菜、俺の彼女」

 あきが照れたように私を紹介すると、明菜ちゃんはしばらくまじまじと私を見つめた後、あわあわと口を震わせて、慌てて中へと引っ込んでいった。

「……嫌われちゃったのかな?」

 明菜ちゃんの反応にちょっとショックを受けた私に、あきは首を横に振った。
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