三毛猫レクイエム。
「指輪」
「え、あ……うん。外せなくて」
明菜ちゃんが、指輪をそっとなでた。
「真子姉、前に進めなくなったら、駄目だよ」
明菜ちゃんの言葉に、私は答えられなかった。
明菜ちゃんは、わかっているとでもいうふうに頷きながら、
「……大丈夫、お兄ちゃんは、真子姉と一緒にいられて幸せだったから」
そう言った。そうして私を抱きしめた明菜ちゃんを、私は泣きながら抱きしめ返した。
涙が枯れた時と、あきは言ったけど、どうすればこの涙は枯れるんだろう。
あきの部屋にある贈り物が増え続けるように、私の涙も沸き続ける。
明菜ちゃんも、おばさんも、きっと辛いはずなのに、前に進めていない私とは違う。
結局私は、前に進もうとしていないだけなのかもしれない。
あきが死んだあの日から、私の時計の秒針は、錆付いて動かなくなった。油を差せば、また動き出すのに、私はその油を差そうともしていないのかもしれない。
あきは、私が前に進むことを望んでいる。
そして、私はそれをわかっている。
それなのに、どうして私は、このままでいるんだろう。
どうして、愛する人の願いを、聞き入れられないでいるんだろう。