三毛猫レクイエム。
「あー、もう。いい年して泣かないの」
「ごめんなさい」
「今、岩田君がデータ復元できるか見てるから」
他の人にまで迷惑をかけて、私はとことん落ち込んでしまう。
「次からは、気をつけなきゃ駄目だよ」
「はい……」
ため息をついた私。そのとき、サイレントモードになっていた携帯が鳴った。確認すると、あきからの今日は迎えに来るというメールだった。
「あれ、それって彼氏?」
「っ」
ぼんやりと携帯を眺めていた私のすぐ隣から、山里先輩の声がして驚いた。先輩は私の携帯を覗き込んでいた。
「へえ、あきっていうのか、姫木ちゃんの彼氏君」
「え、あ、はい……」
山里先輩は笑って、
「実はね、私もやったことあるんだ」
「え?」
「データ消去」
私は驚いて山里先輩を見た。
「本当ですか?」
「うん、本当」
何でも器用にこなしている先輩が、そんなミスをしたなんてことが信じられなくて、私はぽかんとした。
「なんて顔してるの」
笑って私は先輩にデコピンされる。
「一度ミスしたら、同じことを繰り返さなければいい。だから、頑張れ」
「……ありがとうございます」
「ふふ、今日は彼氏にいっぱい甘えなよ」
真っ赤になる私を置いて、先輩は持ち場に戻った。
結局、一部のデータは戻ってきたけど、他のデータは失われてしまった。