三毛猫レクイエム。

「……あき……」

 後悔しても、もう遅い。

 それから数日、あきからの連絡は途絶えて、顔も合わせない日々が続いた。


 そんなとき、あきからメールが届いた。

『午後八時、35ch、おとすた!』

 ただそれだけが書かれた、謝罪でも、なんでもないメール。時刻を見れば、七時四十分だった。
 返信はしないで、テレビの電源を入れた。
 しばらく待てば、テレビコマーシャルのあと、派手な電子音とともに、音楽番組であるおとすた!が始まった。MCのアイドルタレントである白元はじめが、今日のゲストを紹介する。


『今日のゲストは、全国ツアーを終えたばかりの、今、最も勢いのあるロックバンド、“Cat‘s Tail”です!』

 効果音と歓声とともに、“Cat‘s Tail”の四人が奥から現れた。あきを久しぶりに見たのは、テレビの画面越しになった。
 黒髪に銀メッシュで長身痩躯のTAKI、長めの銀髪で女顔のYUKI、青黒い髪に優しい印象のHIRO、そして赤髪ボブで妖艶な印象のTETSU。
 メンバー達がそれぞれ自己紹介をし、白元が“Cat‘s Tail”の軌跡を紹介していく。
 デビュー曲の「AINOUTA」が流れたとき、私ははっとした。

『デビュー曲の「AINOUTA」は、ラブソングですけど、TAKIさんには春が来ました?』

 白元のわざとらしいふりに、私はいらっとする。チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばそうとしたとき、

『タキの春なんて、昔からだよな』

 ユキがからかい口調でちゃちゃを入れる。しかし、女の子みたいな見た目の癖に、ユキの声はものすごく低い。

『あっれ? そんなに長い仲なんですか?』

 食いついた白元に、テツが笑って、

『週刊誌の彼女じゃないっすよ。タキにはデビュー前から心に決めた人がいるんで』
『本当ですか!』

 テツの言葉に、白元が大げさに反応する。ヒロも笑って、

『彼女のアパートに住み着いてるんだよな』

 と、そう言った。三人がかわるがわる口を出す中、あきだけは照れたように、はにかんで何も言わない。
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