三毛猫レクイエム。
第六章

最愛の人の、言葉


 あの日、あきの笑顔がヒロの笑顔に塗り変わっていっていることに気づいた日、激しい罪悪感と恐怖を覚えた私はある決心をしていた。
 それは、ヒロにこれ以上会わないということ。
 ヒロと頻繁に会っているせいで、ヒロの印象が私の中で大きくなっているに違いないから。
 もうこれ以上、あきの笑顔を私の中から消したくなかった。消えてしまうのが、怖かった。

 そんな決心をしている私をよそに、その日ヒロからメールが届いた。

『明日、会えるかな? 大事な話があるんだ』

 正直、会おうかどうか迷った。
 けれど、これ以上会いたくないということをきちんとヒロに伝えることにした。理由を話せば、ヒロならわかってくれるような気がしたから。


「やあ」
「……こんにちは」

 いつもの公園で待ち合わせをした私達。先に待っていたヒロは、私を見て首をかしげた。

「元気ないな。どうした?」

 私は何も言わずに小さく頭を振った。そして、ヒロの隣に腰を下ろした。

「大事な話って何?」

 私が尋ねると、ヒロはすこし照れたように、頬を掻いた。

「大事な話っていうより、渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
「うん」

 首をかしげる私に、ヒロはもったいぶって教えてくれない。

「そっか。今日はね、私も話したいことがあるんだ」

 私の言葉に、ヒロは目を見張った。

「それなら、真子さんの用を先に聞くよ。俺のは長くなりそうだし」

 ヒロがそう言うけど、私は躊躇う。

「……あのね?」
「うん」

 それでも、意を決して私は口を開いた。

「私、ヒロに会うの、今日で最後にしたいの」
「……なんで?」

 すっと目を細めて、無表情になったヒロに、申し訳ない気持ちが込みあがってくる。
 だけど、これだけは譲れなかった。私は、あきを二度と失うわけにはいかないのだから。

「私ね、今でもあきの笑顔を鮮明に思い出せるの」
「それで?」

 ヒロの視線から逃れるように、私は俯いた。
< 61 / 130 >

この作品をシェア

pagetop