三毛猫レクイエム。
「真子さん、タキはもういないんだ。今は俺達の中で輝いていても、いつかその存在が色褪せる日が来るかもしれない。タキのことを思い出さない日も増えるかもしれない。だけど、その時に気づいたら、真子さんが一番傷つくんじゃないか?」
「…………」
本当は、ヒロの言葉を意地でも受け入れたくなかった。
あきのことを思い出さない日が来るだなんて、思いたくもなかった。
だけど、あきの笑顔が、ヒロのものと塗り変わってしまっていたのは事実だ。それも、頻繁にヒロと会っていたというだけで。
そして、そのことに私はひどく傷ついた。
ヒロの言う可能性が、私の中で否定できなかった。
私はただ、あきを忘れまいと意固地になっているだけだったんだ。
人の記憶は、人の心は、薄情だ。
たった一年で、私は、認めたくないと思っていたのに、本当はあきのいない日々に慣れてきていた。
ただ、それに気づきたくなかっただけ。
必死にあきを思い返して、あきに置いていかれた可哀相な自分に酔いしれていただけ。
あきを、あきとの幸せな思い出を、利用していた自分に気づいて、情けなくなった。
「勘違いしないで。俺は、真子さんがタキを想う気持ちが嘘だとは思わない。忘れたくないってのも、当たり前だと思う。だって、忘れられないのは俺も同じだって言っただろ?」
空虚になった、私の心。その目から、涙がこぼれる。
「タキの代わりになりたいなんて、そんなおこがましいことは思わないし、タキの存在に敵うだなんて思わない。だけど、真子さんの笑顔が好きなんだ。真子さんを、俺が笑顔にしたいって、そう思う」
私の心は、ひどく揺れていた。
ショックから、何も考えられず、ただ蒼白になっている。小刻みに、手が震えていた。
「正直、卑怯だと思う。タキのことで傷ついてる真子さんにつけこむなんて。ごめん」
「ヒロ……」
「でも、好きなんだ」
伝えたことを悔やむように、自分を責めるように呟くヒロ。それを見て、胸が苦しくなった。
ヒロは、何も悪くない。ヒロだって、きっと苦しんでる。