三毛猫レクイエム。

「まずは、明菜ちゃん、久しぶり」
「久しぶり、ヒロ君」
「真子さんと俺が一緒にいるのは、デートに行ってきたからなんだ」
「え!」

 明菜ちゃんが驚く。

「それじゃあ、付き合ってるの?」
「……付き合ってるの?」

 明菜ちゃんの言葉に、私もヒロに尋ねた。
 ヒロは私と一緒にいたいといったし、好きだといってくれた。私も一緒にいたいと答えたし、ヒロに惹かれている。
 けれど、私達の関係は曖昧で、付き合っているといえるような関係ではないような気がする。

「まだ、付き合ってないかな」

 ヒロがそう答えると、明菜ちゃんの顔が輝いた。

「まだってことは、これから付き合うの?」
「俺は、そうなってくれると良いなって思ってる」

 照れたようなヒロの言葉に、明菜ちゃんは飛び上がって喜んだ。

「嘘っ! 凄い! ヒロ君だったら、お兄ちゃんも絶対安心して真子姉を任せられるよ!」

 喜んでいる明菜ちゃんを見て、私は少しだけ複雑な気分になった。だけど、そんな私を励ますように、

「真子姉、真子姉が幸せになってくれなきゃ、お兄ちゃんは安心できないよ」

 そう言ってくれる。
 まるで、自分のことのように喜んでくれている明菜ちゃん。あきのことが大好きで、私のことも本当の姉のように扱ってくれる明菜ちゃん。
 その明菜ちゃんにそう言われると、私達のしていることは間違っていないんだと、安心できる気がした。


 心のどこかで、いまだにヒロといることに、ヒロに惹かれていることに、違和感にも似た嫌悪感を覚えていた。
 あきとヒロ、二人への罪悪感。
 これで良いのかと、自分自身に尋ねながらも、前に進まなくちゃ行けないと自分を急かして、今の状況になっている。
 ヒロもヒロで、何か思うことがあるのは明白で、いまだに他人行儀な姿勢を崩していない。

 私達は二人とも、「何か」が邪魔をして踏ん切りをつけられないでいる。

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