欠点に願いを
休憩時間になって、高橋さんがバックヤードに入ってきた。
彼女は確か、今までレジ打ちの担当だった筈。
「荻原さんって、デザインの勉強してたの?」
「……誰から聞いたんですか?」
その事は、このバイトでは喋った事が無いかと思うんだけど。
「いつも店に来てくれる、金髪のお兄ちゃん。よく荻原さんと喋ってる人ね」
やっぱり、そういう余計な事を言うのは……。
「……健人だな」
「健人君っていうの? どっかで見た事ある気がするんだけど」
高橋さんの言葉には、『DEAR』の歌詞の答えが隠されていたけど、あたしはその時は気付かなかった。
むしろ、健人が高橋さんに伝えた余計な情報の方が大きかったしね。
「レジ打ちしてたら会計に来て、“あのPOPは荻原さんが描いたんですか?”って聞かれたから、“そうですよ”って教えたら、荻原さんがデザイン勉強してたって教えてくれたの」
あたしは観念して、本当の事を簡単に教えた。
「芸大に行きたくてデザイン勉強してたんですけど、健人は高校の同級生だったんで勉強してたのを知ってたんです」
「なるほど、だからPOPがあんなに上手なのね」
……健人め、余計な事をしやがって。
この借りは、高くつくぞ。
この時は健人のほくそ笑みに、この借りが一発で返済されるなんて、思ってもみなかった。
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