蜜色トライアングル【完】
四章
1.長野へ
それから一週間が過ぎ、GWの初日。
木葉はジエンタに武具と宿泊用具を積み込み、長野へと向かっていた。
これから4日間、長野の白馬で武術指導が始まる。
ジエンタの運転席には冬青が座っている。
冬青は黒いジーパンにストライプのポロシャツを身に着け、だて眼鏡を掛けている。
武術指導ということで兄は初め道着で行こうとしたが、木葉が説得して普段着に変えさせた。
最初から信者を増やしたら武術指導どころではなくなってしまう。
今回の武術指導はもともと清二が行くはずだったため、現場の人たちは冬青が行くということを知らない。
父の代理で息子が来る、としか知らないはずだ。
桐沢道場の名物美形兄弟は町内では有名だが、隣町などではあまり知られていない。
父が雑誌取材やテレビ取材を頑なに拒み、武術指導もずっと父だけが担当していた。
幼い兄弟を世間の好奇の視線にさらしたくないという父なりの親心だったのだろう。
「山がキレイだね、お兄ちゃん」
「ああ」
ジエンタは関越から上信越道に入り、長野道へと走っていく。
新緑の時期を迎えた山々の緑が目にまぶしい。
緑を見ると心が洗われる気がする。
しかし木葉の心の片隅には重苦しい影があった。