蜜色トライアングル【完】
夕方。
木葉は竹刀の束を抱えて農村のセットの脇を歩いていた。
映画のセットとわかってはいても、中に入って歩いているとまるで自分が本当に江戸時代にいるかのような錯覚に陥る。
木葉は道端に設置された井戸のセットに目を止めた。
石でできた井戸と、釣瓶。
時代劇のセットでは別に珍しくもないものだ。
「……」
木葉は思わず、ぶるっと身を震わせた。
何かが、記憶の片隅に引っかかる。
何かが……。
昔から木葉は井戸を見ると寒気を覚えた。
何故なのかはわからないが……。
井戸といっても木葉が覚えているのは、木葉の家から歩いて20分ほどのところにある氏神様の神社にある井戸だ。
たしかそこに古い井戸があったはず……。
そこまで思い出したところで、木葉はさらに身を震わせた。
なぜか、心が掻き毟られる気がする……。
木葉は足早に井戸の前を通り過ぎた。