蜜色トライアングル【完】
――――四日後。
一通りの武術指導が終わり、最終日の夕方、木葉はスタッフに挨拶をして回っていた。
冬青はまだ現場で最後の指導をしている。
冬青の指導はわかりやすく的確で、とても評判が良かったらしい。
これからもよろしくとすかさずアピールしていた兄は、なかなか商売上手なのかもしれない。
「あら、木葉ちゃん。今日で最後なの?」
挨拶回りの途中、木葉は休憩所に立ち寄った。
中には馨がおり、馨は木葉の姿に気付くと立ち上がって木葉の前へと歩み寄った。
木葉より頭半分ほど高い位置にある彼女の瞳が、哀しげに木葉を見下ろす。
その瞳は本当に綺麗で、木葉は吸い込まれるような気がした。
ここ数日、木葉は馨にとてもよくしてもらった。
現場のことを教えてもらったり、スタッフさんに紹介してもらったり、一緒にお菓子を食べたり……。
まるで歳の離れたお姉さん、という感じだ。
忙しい冬青に半ば放置されていた木葉は、馨の気遣いがとても有難かった。
「小野寺さん……。本当に、ありがとうございました」
「あら……。そんな畏まってお礼言われるようなことは、してないわ」
「でも、いろいろと気遣っていただいて嬉しかったです」