蜜色トライアングル【完】
「お前に何かできる奴がいるとも思えないけど、油断しないようにね。何かあったらおれに言って?」
「わかった。ありがと」
そんな会話を交わしながら歩いているうちに、二人は繁華街を出、大通りに出た。
歩道橋を渡り、向かいの道を少し歩くと『蕎麦居酒屋 花壱』の看板が見えてくる。
花壱は10年ほど前から営業している蕎麦居酒屋で、小奇麗でスタイリッシュな店構えだが店の中はそれなりに広い。
二人は入り口の引き戸を開け、中に入った。
「いらっしゃいませ~」
店に入るとすぐに若い男性店員が愛想よく声をかけてきた。
ふわっと柔らかな茶髪の髪に、長い睫毛に縁どられた焦げ茶の瞳。
引き締まった体に黒い作務衣がよく似合っている。
その白皙の貌は一見、ハーフかクォーターのように見えなくもない。
まるでスクリーンの中から出てきたような、筋金入りの美形だ。
その焦げ茶の瞳は木葉の顔を確認すると、口元の笑みを消し眉根を寄せた。