蜜色トライアングル【完】
5.触れてはいけないもの
<side.冬青>
24時。
ペンションの玄関も灯りが落とされ、夜の闇に沈んでいる。
その玄関に、長身の影が映る。
冬青は静かに扉を開け、中に入った。
既に他の客は寝ているのだろう。あまり物音がしない。
カウンターの向こうではこの宿の主人だろうか、壮年の男がうつらうつらしている。
「……」
不用心だとは思いつつも、遅れたこちらに非がある。
冬青はカウンターをこんこんと軽く叩いた。
「……はっ……」
主人は目が覚めた様子ではっと目の前の冬青を見上げた。
瞬間、その目に驚愕が走る。
仄暗い中でも冬青の顔立ちは目を引くらしい。
「遅れて申し訳ない。桐沢だ」
「い、いえいえ……。遅くまでお疲れ様でした」
主人は慌ててカウンターに置かれた帳簿をぺらっとめくり、部屋番号を確認した。