蜜色トライアングル【完】
風呂から上がった冬青は、静かに二階へと上がった。
極力足音を立てないように廊下を歩く。
冬青の全身を気怠さが支配していた。
朝から夜まで指導に次ぐ指導で、このレベルでできれば充分だろうと冬青が思っても、アクション役の脇役達が異様にのめりこみ、現場は妙な熱気に包まれていた。
冬青が斬っても斬っても、『もう一回お願いします!』と起き上ってくる。
――――もはや殺陣の指導ではなく、あれは剣術指導だった。
四日間、指導は深夜まで続いた。
冬青もそれなりに体力はある方だが、四日間連続はさすがに疲れる。
部屋の前まで行き、ドアノブに鍵を差し込み回すと、扉が静かに開いた。
もう木葉は眠っているのだろう。
灯りは落とされ、周りが良く見えない。
急いで予約したので、同室になってしまったが仕方ない。
確かツインルームと書いてあったような気がする。
と思った冬青だったが。
「……?」
目の端にちらっと映ったものに、冬青は驚いて目を凝らした。
無意識のうちにタオルを握りしめる。
――――まさか。