蜜色トライアングル【完】



風呂から上がった冬青は、静かに二階へと上がった。

極力足音を立てないように廊下を歩く。

冬青の全身を気怠さが支配していた。


朝から夜まで指導に次ぐ指導で、このレベルでできれば充分だろうと冬青が思っても、アクション役の脇役達が異様にのめりこみ、現場は妙な熱気に包まれていた。

冬青が斬っても斬っても、『もう一回お願いします!』と起き上ってくる。

――――もはや殺陣の指導ではなく、あれは剣術指導だった。


四日間、指導は深夜まで続いた。

冬青もそれなりに体力はある方だが、四日間連続はさすがに疲れる。


部屋の前まで行き、ドアノブに鍵を差し込み回すと、扉が静かに開いた。

もう木葉は眠っているのだろう。

灯りは落とされ、周りが良く見えない。


急いで予約したので、同室になってしまったが仕方ない。

確かツインルームと書いてあったような気がする。

と思った冬青だったが。


「……?」


目の端にちらっと映ったものに、冬青は驚いて目を凝らした。

無意識のうちにタオルを握りしめる。


――――まさか。

< 161 / 222 >

この作品をシェア

pagetop