蜜色トライアングル【完】



冬青はしばらくそうした後、脱力した様子で立ち上がり、窓際の長椅子に座った。

そのまま足を伸ばし、横たわる。

今日はここで寝るしかない。

ベッドで寝たりなどしたら……何をするかわからない。


「……ん?」


ふと見ると、長椅子の横の小さなスツールに名刺のようなものが置かれている。


『小野寺馨』


どうやらあの女の名刺のようだ。

しかしなぜ、ここに?

木葉が貰ってきたのだろうか?


冬青は眉根を寄せた。

――――小野寺馨。

彼女は冬青が帰る直前、声をかけてきた。


『あら、もう行くのかしら?』


もうといっても23時を回る時間である。

こんな時間でも完璧な化粧を施した彼女は、やはり女優なのだろう。


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