蜜色トライアングル【完】
六章

1.朝の湿原




翌朝。

木葉はカーテンの隙間から差し込む朝日にうっすらと目を開けた。

サイドテーブルに置かれた時計を見ると、6時を指している。

まだ早いが、たっぷり睡眠をとったせいか眠くはない。

木葉は隣に目を向け、冬青の姿がないことに気が付いた。


「お兄ちゃん……」


やっぱり帰ってこなかったらしい。

彼女と一晩一緒だったのか……。


一緒に高原に行くって約束したのに……。


やり場のない悲しみと寂しさに眉根を寄せ、木葉はベッドから降りた。

と、そのとき。


「……え?」


長椅子の上に冬青の姿を見つけ、木葉は目を丸くした。

兄は細身の黒いカーゴパンツにTシャツというラフな格好で、長椅子の上に横たわっている。

さらっとした黒髪が頬にかかり、濃い影を作っている。

長い睫毛にすっと伸びた鼻筋は、まるで精密に創られた彫刻のようだ。


「……」


木葉は思わず兄の顔をまじまじと見た。

お互い年頃になってからは寝顔を見たことなどほとんどない。


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